連載2025.01.20
愛の心で一服 第38回(愛の手紙コンクール入賞作品より)
ありふれた幸せ
おはよう。コーヒーが、テーブルに二つ並ぶ。あなたが読み終えた新聞を、ななめ読みする。
納豆、漬物、味噌汁と切干大根の煮つけ。十分足らずで終える簡単な朝食。
お弁当を作った後、洗濯機が洗い終わったよと、洗面所から呼びかける。
洗濯物を干し終えると、もう出勤時間。
「夕方まで会えないのね。寂しいわ。」なんて冗談口をきいて、別々の職場へ。
そんな、何気ない一日のスタートが永遠に続くと信じていた。
乗せる頭のない枕を思わず抱きしめた後、一つだけ入れるコーヒー。
私しか読む人のいない新聞。テレビの音しか聞こえないダイニング。
あなたに会いたい。あふれる思い。
ありふれた日常がどんなに幸せだったのか、今更ながら実感する。
私のもとに生還して。今日も、あなたの回復を祈りながら、がんセンターに向かいます。
応募時(埼玉県58歳)小山美佐江