連載2024.12.11
愛の心で一服㊲(愛の手紙コンクール入賞作品より)
思いやり
病院のベッドの上、当分上半身を起こすことのできない僕は苛ついていた。
目の前はいつも天井だけ。そんな僕の唯一の楽しみ、それは同部屋で隣のベッドにいる君とのささやかな会話だった。
君は僕を励まそうと毎日窓の外の情景を教えてくれた。
「鳥が木の枝で一生懸命毛づくろいしている」とか「今日の夕焼けは最高」と。
やがて回復していき、とうとうあさってが退院という日、隣のベッドから君の姿が消えた。
そして看護婦さんが今までの君の秘密を打ち明けてくれた。
君は目が見えなかったのに僕を励ますためにやさしい嘘をつき通した。
君が亡くなってから初めて知ったよ。
目が見えなくても心の中はきっと光で満ち溢れていたんだね。
君は僕に人を思いやる気持ちを教えてくれた、幼い日の僕に。
大きくなった今でも決して忘れない君がくれた思いやり。
応募時(神奈川県20歳)品川勝史