連載2024.05.29
愛の心で一服㉝(愛の手紙コンクール入賞作品より)
ずっと親子
微熱が続き病院へ行くと思いがけず父さんと出会ったね。
定期検診だとのこと。思えばどのくらい話をしていなかっただろうね。
婿養子となった長男の私をどんな思いで見ていたのか。後悔に似た重い感情が胸を圧したよ。
診断は軽い腎盂炎だったよ。
待合室に戻ると、父さんはうつむいて座っていたね。
待ってたのと尋ねると「まあな」と笑ったね。
胸の中にさっきの感情が蘇ったよ。
ことさら素っ気ない口調を繕い、先に帰ってと告げたんだ。
父さんを怖いだけの人と思ってたよ。でもそんな優しさを見せるなんて。
無数の思いが束になって胸を締め付けたんだ。
流れ落ちる涙をどうすることもできなかったよ。
帰宅したら父さんに電話しようと決心したんだ。
父さんが大好きな蕎麦を食べに行こうと誘ってみようと思うんだ。
今なら向き合える気がするんだ。
そしてそれは、ふてぶてしかった私自身を償う最後のチャンスだと思うんだよ。
応募時(佐賀県47歳)吉村金一